東京都の「中小企業の賃金事情」を批評する!/鵜呑みにしたらトンデモナイことになる<6>
東京都の「モデル賃金」は「模範的な人物の賃金」という意味。いわゆる「平均的な人物がもらう賃金」ではないので要注意
◇ 中小企業に合わない「モデル賃金」人事部長 この東京都の「中小企業の賃金退職金事情」には「モデル賃金」という言葉が出てきますが、何のことですか?
北見 この東京都の「中小企業の賃金退職金事情」では、次のように説明しています。
モデル賃金
モデル賃金とは、学校を卒業してすぐに入社した者が普通の能力と成績で勤務した場合に、当該企業の賃金規定及び昇給事情のもとで、通勤手当を除く所定時間内賃金の固定部分が、勤続年数に応じてどのように上昇するかを算出したものをいう。本調査では、モデル条件に合致する者がいない場合には、賃金規定や給与表などによってモデル条件に最も近い者を参考に、モデル年齢の者がいると想定して回答を求めた。
人事部長 要するに「平均的な人物がもらう賃金」という意味ですか?
北見 いいえ、一般的に「モデル賃金」というのは、次のような人物の賃金です。
企業に就職した人材が、一定の条件下において標準的に昇格・昇進をしていった場合の賃金推移をモデル化したもの。学歴、年齢、職種、勤続年数に応じて算出されるケースが一般的である。一定条件によってモデル化された条件に合致する人材がいる場合には「標準者」と呼ばれ、ベンチマークとして活用される場合もある。また、各公的機関や民間団体等も広く賃金の調査を行い産業別、企業規別のモデル賃金を算出している。
人事部長 その「標準的な昇格・昇進」というのは、どんな意味ですか? ヒラ社員ではないのですね?
北見 はい、生涯ヒラ社員の方は、いわゆるモデル賃金の概念に合いません。モデル賃金は、係長や課長にまで昇進することを前提にした賃金です。つまり「新卒で入社して、主任・係長・課長へと昇進した場合の賃金」です。だから平均的な人物の賃金ではなく、模範的な人物の賃金だと受け止めてください。
人事部長 私の勤務している銀行は、いつもそのモデル賃金を人事部がいっていました。
北見 銀行は新卒がほとんどですから、そのモデル賃金の条件に合いますが、中小企業ではなかなか合いません。
人事部長 どうしてですか?
北見 いいですか? 新卒で入社して定年までというのは何年ありますか?
人事部長 だいたい40年でしょう。
北見 そんなに勤務年数の長い社員がどれだけいますか?
人事部長 いません。当社はだいたいそんなに社歴がありません。ということは、モデル賃金というデータはあまり参考にしない方が良いですか?
北見 はい、その部分は誤解の的ですから見ない方が良いです。
人事部長 どこに載っていますか?
北見 ここです。
北見 この賃金の額を見られて、どう感じますか?
人事部長 高いです。特に中高年になった人の賃金は高いと思います。当社とは比べものになりません。
北見 はい、もうメチャクチャ高いだと思います。高校卒の賃金をみてみましょう。
18歳 173000円 これはまあ初任給ですね。普通です。
30歳 249000円 これも相場並みですね。
40歳 325000円 やや高くなっていますね。
50歳 413000円 高いですね。そもそも、この「50歳」というのは管理職なのでしょうか? もし一般社員だとすれば、この金額を基礎にして時間外手当を払ったら、すぐ60万円になるでしょう。
人事部長 ナルホド、確かにその通りです。41万円のヒラ社員なんて、当社にはいません。定時で退社して41万円なんて、中小企業ではあまりないと思います。
北見 このようにモデル賃金というのは、どこから課長になって、管理監督者になるのか具体的に明示していないのが問題です。これは致命的な欠陥です。もしこんなモデル賃金をベースにして、昇給コースを作ったらどうなりますか?
人事部長 といいますと?。
北見 企業は昇給で人件費が膨らむので、経営が苦しくなり、結果として曖昧なサービス残業を生み出すことになるでしょう。この「モデル賃金」の問題を北見昌朗流に改めて、解説すると、次の通りになります。
その1 モデルの賃金は中小企業に合わない
この「モデル賃金」は、標準者(モデル)について、その賃金を調べたものであるが、中小企業の場合は、中途入社や中途退職が多いので、そのモデル条件に合致しない人が多数を占める。
その2 所定内の賃金の定義が曖昧
この「モデル賃金」は、所定の勤務時間に対する賃金について調べたものである。だが、実際の賃金というものは、所定内の賃金と、所定外の賃金は、明確に区分けしにくい。例えば、営業手当などはその見本である。営業手当が「みなし時間外手当」であるかどうか判然としない。
その3 サービス残業の温床になる
この「モデル賃金」は、その賃金の上がり方が大きい。定期昇給が大きいと、企業側は人件費負担が大きいので、他で調整をしようとする。それが結果としてサービス残業の温床になる。イマドキの賃金は、時間外手当の支払いを考えれば、昇給はもっと抑制されるべきだ。この東京都の「モデル賃金」をベースにして、賃金の表を作ったら、トンデモナイことになる。
その4 管理監督者の定義が曖昧
モデルの賃金は、生涯ヒラ社員のだった労働者の賃金ではない。「平均的に昇進した人物」の賃金という意味である。だから50代ぐらいになったら、相当の人が管理職に昇進しているはずだ。ところが、東京都の「モデル賃金」は、どこから管理職になったのか? どこから時間外手当が付かなくなるのか不明である。ここが根本的な問題点だ。
北見昌朗は、このモデル賃金に対する反論の意味を込めて「ズバリ! 実在賃金」を作っているのです。
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