賃金構造基本統計調査(賃金センサス)を批評する!
賃金構造基本統計調査を批評する! パートタイマーまで含めている。通勤手当まで含めている等々、問題点だらけ
社長 国も、賃金の調査を行っているのでしょうね。
北見 はい、色々ありますが、一番知られていて、使われているのは厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(賃金センサス)です。
社長 どうやってみるのですか?
北見 インターネットで「賃金構造基本統計調査」と検索すれば出てきます。
社長 なるほど、ネットで検索すれば出てきますね。東京都の部分はどこに載っていますか?
北見 「都道府県別」の欄をご覧下さい。そこに産業計のほかに業種別に並んでいます。また、企業規模は1000人以上・100人以上1000人未満・10人以上100人未満という区分がしてあります。
社長 この「所定内給与額」とか「決まって支給する現金給与額」というのは、どんな意味ですか?
北見 次のように解説があります。
所定内給与額
きまって支給する現金給与額のうち、超過労働給与額を差し引いた額をいう。超過労働給与額とは、次の給与の額をいう。
ア 時間外勤務手当 所定労働日における所定労働時間外労働に対して支給される給与
イ 深夜勤務手当 深夜の勤務に対して支給される給与
ウ 休日出勤手当 所定休日の勤務に対して支給される給与
エ 宿日直手当 本来の職務外としての宿日直勤務に対して支給される給与
オ 交替手当 臨時に交替制勤務の早番あるいは後番に対して支給される交替勤務給など、労働時間の位置により支給される給与
きまって支給する現金給与額
労働契約、労働協約あるいは事業所の就業規則などによってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって6月分として支給された現金給与額をいう。手取り額でなく、所得税、社会保険料などを控除する前の額である。
現金給与額には、基本給、職務手当、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などが含まれるほか、超過労働給与額も含まれる。
社長 難しい解説ですが、要するに何ですか?
北見 「きまって支給する現金給与額」というのは、通勤手当・時間外手当等まで含んだ毎月の賃金の総額です。いわゆる「給与の総額」です。
「所定内給与額」というのは、「きまって支給する現金給与額」から時間外手当関連を控除した金額です。
社長 うーん、通勤手当も入っているのですか?
北見 入っています。
社長 それでは判断しにくいですよね。いわゆる賃金というのは、通常は通勤手当を除いた額で、高いか低いかを判断するものですよね?
北見 その通りです。通勤手当は実費弁済ですから、意味が違います。
社長 その「所定内給与額」の中に通勤手当はいくらは入っているのですか?
北見 不明です。
社長 通勤手当の相場はいくらですか?
北見 東京などの大都市は通勤距離が長いので通勤手当が大きくなりがちです。地方はそれが小さくなりがちです。しかしながら、それがいくらが相場なのか、どこにもわかりません。
社長 通勤手当は案外大きいですよね?
北見 大きな存在です。それで1万円以上変わったりしますから、初任給の中に入れたら、初任給がぶれてしまいます。
社長 この「賃金構造基本統計調査」は「平均値」ですか、あるいは「中位数」ですか?
北見 「平均値」です。
社長 ということは?
北見 「平均値」を下回る人は、一般的に6割近くいます。
社長 年齢の区分が5歳刻みになっています。例えば「20歳以上24歳以下」とのことですが、20歳と24歳とでは5歳も違うので、判断しにくいです。1歳刻みはありませんか?
北見 ありません。あくまでも5歳刻みです。
社長 ところで、この「賃金構造基本統計調査」は、どんな労働者の賃金を調査しているのですか?
北見 「常用労働者」です。これは「正社員」という意味とイコールではありません。次のように解説されています。
労働者社長 私は「正社員」の賃金を知りたいのですが---
ここにいう労働者とは、労働基準法第9条にいう労働者(ただし、船員法第1条の規定による船員は調査の対象から除外している。)をいい、「常用労働者」と「臨時労働者」に区分している。
(注)法人、団体、組合の代表又は執行機関である重役でも、業務執行権や代表権をもたず、工場長、部長などの役職にあって、一般労働者と同じ給与規則によって給与を受ける場合には、労働者としている。また、家族従業者でも、他の労働者とほぼ同じように勤務し、同じような給与を受けている場合には、労働者としている。
ア 常用労働者
常用労働者とは、次の各号のいずれかに該当する労働者をいう。
(ア) 期間を定めずに雇われている労働者
(イ) 1か月を超える期間を定めて雇われている労働者
北見 全国の統計は「正社員・正社員以内・その合計」という区分で賃金データが区分されています。しかしながら、都道府県別の賃金データは、単に「常用労働者(つまり非正社員を含む)」というカテゴリーしかありませんので、いわゆる「フルタイムのパートタイマー」も入っています。
社長 私は、東京都の「正社員」の賃金を知りたいのですが---
北見 そのようには調査しておりません。いわゆる「職位」ごとにまとめていません。
社長 うーん、当社の企業規模は「10-99人」のところに該当しますね。その男性の賃金をみると、「50-54歳」の部分を見ますと、次のように載っていました。この賃金のデータをどう見れば良いのですか?
北見 この統計では、例えば次のような労働者の賃金があれば、その合計値を人数で割った平均値になってしまいます。それも通勤手当まで入った額です。
社長 賃金構造基本統計調査と「ズバリ! 実在賃金」の違いをもっと詳しく説明してください。北見 それならば、1つの例を出しましょう。ここに9人の労働者がいたとします。別表です。3人は管理職、3人は一般社員、3人はパートタイマーだとします。その所定内の賃金(通勤手当含む)の平均値は「30.6万円」ですね。これが賃金構造基本統計調査(賃金センサス)でいうところの「所定内給与額」です。そして、時間外手当を含めた賃金の総額(賃金構造基本統計調査でいうところの「決まって支給する現金給与額」)は「32.6万円」ということになります。
社長 変な算出方法ですね。民間の感覚とは違います。「ズバリ! 実在賃金」の場合はどうなるのですか?
北見 「ズバリ! 実在賃金」はまずパートタイマーを除外しています。そして正社員を「管理職」と「一般社員」に区分します。
社長 その「管理職」の定義は何ですか?
北見 会社側が「管理職」として扱い、時間外手当を払っていない人です。
その上で中位数といいまして、ど真ん中の人を探して、それを「相場」と見なします。そこで出される賃金は、次のような額になります。
社長 なるほど、同じ賃金の統計でも、作り方が違うのですね。
北見 「ズバリ! 実在賃金」の場合は、中小企業の経営者が、従業員の賃金や賞与を決める際の判断資料にする目的で作成しています。お役所の統計は、目的からして違います。